海外展開やインバウンド対策の一環として、Webサイトの多言語対応を検討される場面は年々増えています。こうした背景の中で、ノーコードツール「Studio」を活用して多言語サイトを制作したいというニーズも増えてきました。とはいえ、Studioでどのように多言語対応を実現すればよいのか、迷われる方も少なくありません。そこで本記事では、Studioで多言語対応サイトを構築する方法について、現実的な実装パターンや注意点をわかりやすく解説します。ぜひWebサイト制作や運用の参考にしてみてください。Studioで多言語サイトはつくれる?Studioは多言語専用機能を備えていないStudioは、ノーコードで高いデザイン性を実現できるWeb制作ツールとして多くのユーザーに利用されています。ただ、多言語サイトを構築するにあたっては、いわゆる「多言語専用機能」が標準で備わっているわけではありません。たとえば、言語切替ボタンの自動生成や、言語ごとのSEO設定(hreflangタグの自動出力)、各言語のコンテンツ管理を一元化できる仕組みなど、専用CMSが持つような多言語サポート機能は用意されていません。そのため、多言語サイトを検討される方の中には「Studioでは難しいのでは?」と感じるケースも少なくないかもしれません。ですが、Studioに専用機能がないからといって、多言語サイトそのものが実現できないわけではありません。もちろん、専用機能が備わっていない分、手作業での設定や運用の工夫は必要になりますが、工夫次第で実現できる範囲は十分にあります。それでも実装する方法は?Studioには多言語専用のプラグインは用意されていませんが、代わりに、ページごとの構成を柔軟に設計できるのが特徴です。この柔軟性を活かすことで、多言語対応を実現しているケースも見られます。具体的には、各言語ごとに必要なページを複製・作成したり、URLの階層を工夫して整理したりすることで、多言語構成を組み立てていく形になります。また、Studioのコンポーネント機能やスタイル設定を活用することで、複数言語でも共通するデザインやレイアウトを効率的に反映できる点も、実務上の負担を軽減するポイントになります。もちろん、完全な自動化はできませんので、翻訳作業やSEO設定などはそれぞれの言語で個別に管理していく必要があります。ただ、ノーコードツールの中では比較的自由にページ構成やURL設計をコントロールできるため、必要な多言語構成を組み立てやすい環境と言えます。小規模から中規模のコーポレートサイトや、ランディングページなどであれば、Studioでも十分に実務レベルの多言語対応を実現することができます。次の章では、Studioで多言語対応を行う際に考えられる3つの具体的な実装パターンについてご紹介していきます。Studioでできる3つの多言語対応パターン3選Studioには多言語対応用の専用機能はありませんが、工夫しながら構成を考えていくことで実現できる方法もあります。ここでは、多言語対応を行う際に考えられる3つのパターンを整理します。サイトの規模や管理体制によって適した方法は異なりますので、それぞれの特徴を参考に検討してみてください。1. 1プロジェクト内で言語別にページを作成する方法Studioの1つのプロジェクト内に、各言語ごとのページを作成していく方法です。たとえば、トップページ・会社概要・サービス紹介といった日本語ページを作成した後、それぞれのページを複製して英語版や中国語版を作成する形になります。この方法は、デザインやサイト構成を統一しやすく、管理画面上でもすべてのページが1つのプロジェクト内に収まるため、全体の構成を把握しやすいという特徴があります。Studioのコンポーネントやスタイル機能も活用しやすく、見た目の統一感も保ちやすくなります。ただし、言語数が増えるほどページ数も大きく膨らむため、ページの整理や更新漏れの防止など、運用面の管理体制をしっかり整える必要があります。2. 言語ごとにプロジェクトを分けて別々のサイトとして運用する方法各言語を別々のStudioプロジェクトとして作成・運用する方法です。たとえば、日本語サイト用のプロジェクト、英語サイト用のプロジェクトというように完全に分けて構成します。公開時は、サブドメイン(en.example.com など)や別ドメインで運用するケースもあります。この方法は、言語ごとに担当者や更新頻度が異なる場合や、言語ごとに提供内容が一部異なるようなケースで検討されることがあります。プロジェクトごとに独立して管理できるため、個別対応の自由度は高くなります。一方で、複数のプロジェクト間での内容統一や更新管理は手間がかかりやすくなるため、管理ルールの整備が不可欠です。3. 1ページ内に複数言語を併記する方法比較的シンプルなケースで採用されるのが、1つのページ内に複数言語を併記する方法です。たとえば、日本語の概要文の下に英語の翻訳文を並べて表示するような形式です。美術館の展示案内や観光施設の情報提供ページなどで採用されることがあります。この方法は、そもそも多言語ページ数を増やさずに済むため、制作や更新作業の負担は抑えられます。また、翻訳漏れのリスクも比較的小さくなります。ただし、情報量が多くなるとページ内が長くなりすぎたり、UIが煩雑になりやすいため、表示の工夫が必要です。また、SEO上は基本的に日本語ページとして認識され、多言語SEO効果は限定的になります。それぞれの方法のメリット・デメリット多言語対応の実装方法によって、制作・運用の進め方は大きく変わってきます。ここでは、紹介した「1プロジェクト内で管理する方法」「プロジェクトを分ける方法」「1ページ内に併記する方法」の3つについて、管理・SEO・ユーザー体験の3つの視点から比較します。1. 管理しやすさ・更新のしやすさ管理や更新をできるだけスムーズに進めたい場合は、「1プロジェクト内で管理する方法」 がもっともおすすめです。全言語を一元管理できるため、どの言語のページがどこにあるかを把握しやすく、共通デザインの調整やスタイルの適用も効率的です。Studioの標準機能でも十分対応しやすいため、多くのケースで扱いやすい方法といえます。一方、「プロジェクトを分けて運用する方法」 は、各言語プロジェクトごとに管理がしやすい反面、複数プロジェクト間の統一管理が必要になるため、更新漏れや情報の差異が起きないよう注意が必要です。「1ページ内に併記する方法」 は、少ない言語数であれば更新負担が小さく、翻訳漏れも起きにくいためおすすめです。ただし、言語数が増えてくるとページが長くなり、管理自体が難しくなる傾向があるため、基本的には簡易的なケースに限定されます。実装方法メリットデメリットおすすめ度1プロジェクト内で管理する全言語をまとめて管理でき、全体像を把握しやすい。言語数が増えるとページ数が膨大になり、整理や更新漏れに注意が必要。○プロジェクトを分けて運用する言語ごとに完全に独立して管理でき、内容構成や更新頻度が分かれても対応しやすい。複数プロジェクトの内容統一が手間。更新漏れ防止のルール整備が必要。△1ページ内に併記するすべての言語が1ページ内に集約されるため、更新負担が小さく、翻訳漏れも起きにくい。言語数や情報量が増えるとページが長くなり、情報が複雑になる。△2. URL設計やSEOの観点から見る違いSEO面も考慮する場合は、「プロジェクトを分けて運用する方法」 がもっともおすすめです。サブドメインやサブディレクトリを活用して言語ごとに完全にサイトを分離できるため、Googleにも明確に各言語サイトとして認識させることができます。自然とURL構造も分かれ、言語ごとの検索結果にも反映されやすくなります。「1プロジェクト内で管理する方法」も、URL階層を /en/ や /zh/ などで整理することで一定のSEO整理は可能ですが、Studioはhreflangタグの自動出力には対応していないため、多言語ページ同士の関連付けが検索エンジン上で正確に認識されない可能性があります。あくまで簡易的な多言語対応として考えるのが現実的です。一方、「1ページ内に併記する方法」は、SEOの観点ではほとんど有効ではありません。基本的に日本語ページとしてのみ評価されるため、検索流入を前提にする場合には向きません。あくまで情報提供用の表現方法に留まります。実装方法メリットデメリットおすすめ度1プロジェクト内で管理するURL階層(/en/、/zh/など)を整理しやすく、Googleにも各言語を認識させやすい。hreflangタグは自動出力されないため、Googleが多言語ページの関係性を正しく認識できないリスクがある。△プロジェクトを分けて運用するサブドメインやサブディレクトリで明確に言語を分離可能。検索エンジンにも伝わりやすい。プロジェクトごとにSEO設定の個別対応が必要。○1ページ内に併記する制作の手間は少ない。翻訳もまとめて管理できる。原則日本語ページとして認識され、多言語SEO効果は限定的。検索流入は狙いにくい。×3. ユーザー体験(UI/UX)のわかりやすさユーザー体験のわかりやすさを重視する場合は、「1プロジェクト内で管理する方法」 がおすすめです。ナビゲーションに言語切替ボタンを設置するだけで、ユーザーは簡単に自分の言語を選択できます。Studio標準機能の範囲内で切替導線を比較的柔軟に設計できるため、ページごとの言語切替も対応可能です。「プロジェクトを分けて運用する方法」では、言語ごとにサイト自体を完全に分けて運用できるため、初回アクセス時に正しい言語サイトへ誘導できれば、その後は迷いにくくなります。ただし、ページ構成が言語ごとに異なる場合、各サイト間で情報の差異が生じやすくなるため、内容の整合性や更新の統一には注意が必要です。一方、「1ページ内に併記する方法」 は、少ない言語数であれば一覧性が高く、複数言語を同時に確認できる利便性があります。ただし、言語や情報量が増えてくると縦に長くなりやすく、特にスマートフォンではスクロール量が多くなって読みづらくなる傾向があります。小規模なコンテンツ向けに限定的に使うケースが多い方法です。なお、Studioの標準機能では、いずれの方法においてもページ同士を自動で紐付ける仕組みは備わっていません。言語切替ボタンを設置しても、基本的には各言語のトップページへの遷移が中心となります。現在閲覧しているページと対応する言語版に遷移させたい場合は、各ページごとに手動でリンクを設定する必要があります。実装方法メリットデメリットおすすめ度1プロジェクト内で管理する言語ごとに切り替えページを用意でき、分かりやすい導線を作りやすい。ページ数が多くなり、ナビゲーションや導線が複雑化しやすい。○プロジェクトを分けて運用するサイト自体が完全に分かれるため、迷いにくく直感的。ページ構成が言語ごとに異なると、情報の整合性維持や更新の統一が難しくなる。○1ページ内に併記する一度の閲覧で複数言語を確認できる一覧性がある。モバイルでは縦長になり読みづらくなる。情報量が多いと視認性が低下。△実装時に気をつけたいポイントStudioで多言語対応を実装する際は、標準機能に頼りきれない部分も多いため、事前の設計と運用の工夫が重要になります。細かな部分ですが、事前に意識しておくことで後の管理やユーザー体験に大きく影響します。1.言語切り替えナビゲーションの設計多言語サイトでは、ユーザーが迷わず希望の言語に切り替えられるよう、言語切替ボタンの設計が重要です。ヘッダーなどに常時表示することで、どのページからでも言語変更が可能になるようにするとユーザー体験として好印象です。また、Studio標準機能でもボタン設置自体は容易ですが、ユーザー体験をよりよくするために、ページごとに正しい言語版へ遷移できるよう個別でリンク設定を行う工夫が求められます。また、切替ボタンのUIも重要です。「日本語 / English」などのテキスト表記は、基本的に該当の言語で表記するのが推奨されます。たとえば、英語版切替は「English」と書く、フランス語版切替は「Français」と書くといった具合です。こうすることで、それぞれの言語利用者が自分の言語を直感的に識別しやすくなります。一方、他言語の利用者が読める共通言語として英語表記を採用するのも有効です(たとえば「Japanese」「English」など)。また、国旗アイコンの使用は避けるのが基本です。一つの国に複数の公用語が存在するケースが多く、言語選択としては誤解を招きやすいため、国旗ではなく言語で表記するのがより適切な表現となります。2.翻訳の品質管理多言語サイトでは、翻訳の品質がそのままサイト全体の信頼感やブランドイメージに直結します。特にビジネスやサービス紹介を行うサイトでは、些細な表現ミスでも閲覧者に不安を与えてしまう可能性があるため、翻訳品質の担保は欠かせません。初期段階では、Google翻訳やDeepLといった機械翻訳を利用して大まかな翻訳原稿を用意するのは有効です。これにより、ある程度の品質でスピーディに用意できます。ただし、そのまま機械翻訳の結果を公開するのではなく、ネイティブチェックや専門家による校正を行うことが重要です。業界用語や企業独自の表現が正しく訳されているか、文化的に適切なニュアンスになっているかなど、人の目による確認が必要になります。また、複数言語を展開する場合は、言語ごとの用語統一(用語集作成) をあらかじめ用意しておくと、表記揺れや意味のズレを防ぐことができ、全体の品質を安定させやすくなります。3.メタ情報の設定SEOやSNSシェア時の情報を正しく表示させるために、各言語ごとのメタ情報(タイトル・説明文・OGP)の設定も忘れてはいけないポイントです。Studioではページごとにメタ情報を個別に設定できるため、言語ごとに適したタイトルやサムネイルを用意することが可能です。たとえば、日本語ページには日本語の説明文・画像を、英語ページには英語の表現を設定しておくことで、シェア時にも自然な多言語対応ができます。なお、Studioではページごとに「使用言語」を設定することができます。たとえば、メインを日本語に設定し、一部だけ英語ページにする、といった使い方も可能です。この設定をしておくと、翻訳ツールやスクリーンリーダーが言語を正しく認識しやすくなり、翻訳精度や読み上げの正確性が向上します。アクセシビリティ対策としても有効です。※ただし、Studioで設定できるのはあくまでメタ情報(lang属性)レベルの指定であり、言語間の構造的な関連付けを行うような「多言語対応に特化した機能」ではない点には注意が必要です。こうした細かなメタ情報の整備も、多言語サイト全体の完成度を高める重要な要素のひとつです。4. URL階層を工夫して整理するStudioでは、各ページごとにURL(スラッグ)を柔軟に設定できるため、多言語対応時にはURL構造をあらかじめ統一ルールに沿って設計しておくことが重要です。適切なURL設計は、SEOや管理のしやすさ、運用時のミス防止に大きく寄与します。多言語対応における基本的な考え方としては、言語ごとにトップディレクトリを分け、スラッグは各言語で共通にそろえるという方法が一般的です。たとえば以下のような形です。/about/ (日本語版)/en/about/ (英語版)/zh/about/ (中国語版)このように構成しておくことで、各言語間のページ対応関係がURLからも一目で把握できるようになります。また、URLが統一されていると、更新作業やリンク設計時にも迷いが少なく、長期運用でも安定しやすくなります。特に「1プロジェクト内で管理する方法」を採用する場合は、このURL設計が実質的な多言語構成の土台となります。Studio標準機能ではhreflangタグの自動出力は行われないため、URL階層を整理すること自体が検索エンジンへの補助的なヒントにもなります。なお、「プロジェクトを分けて運用する方法」の場合でも、URLのディレクトリやサブドメイン構成を整理しておくことは、SEO整理やユーザー導線の設計に役立ちます。おまけ|外部ツールを使って多言語対応を強化する方法Studioは標準機能だけでも一定の多言語対応は可能ですが、自動翻訳や言語切替の利便性、SEO強化まで含めた本格的な多言語サイトを目指す場合は、外部ツールを活用するのも一つの選択肢です。ここでは、Studioと併用しやすい代表的なツールをご紹介します。Weglotを使って自動翻訳&言語切替を導入する現状、Studioと比較的相性がよく、実務でも採用されることのある多言語化専用ツールにWeglotがあります。コードの埋め込みだけで導入でき、Studioでの実装ハードルも低めな点から、多言語対応の選択肢として検討されることがあります。Weglotを導入することで、以下のような機能が利用可能になります。自動翻訳の反映(110以上の言語対応)翻訳後の表現を編集・管理可能(ネイティブチェックにも対応しやすい)Studioサイトに埋め込みコードを埋め込むだけで設置が完了SEO対策(hreflangタグの自動設定、各言語URLの自動生成)特に、hreflangタグの自動生成機能などのSEO対策は、Studio標準機能ではカバーしきれない非常に良いポイントです。これにより、多言語SEOの強化にも有効です。Weglotはサブスクリプション型の有料サービスですが、無料プラン(2000文字まで、1言語対応)も用意されており、まずはスモールスタートで試すことも可能です。翻訳対象ページ数や文字数、言語数によって料金は段階的に上がっていきますが、小規模なサイトのテスト運用から、本格的な多言語展開まで柔軟に対応できるのが特徴です。現時点ではWeglot以外の簡易な代替は少ない以前はGoogle翻訳ウィジェットのような無料の埋め込みサービスもありましたが、現在は提供終了しており、現実的に利用可能な汎用自動翻訳ウィジェットは少なくなっています。そのため現状の選択肢としては、Studio標準機能+手動管理Weglotなどの外部サービス活用この2択に整理されつつあるのが実情です。まとめ|Studioでも、工夫次第で多言語対応は可能Studioは、多言語対応専用の機能を標準では備えていないものの、工夫次第でさまざまな形で多言語サイトを構築することが可能です。1プロジェクト内でのページ管理、プロジェクトを分けての運用、1ページ内での併記など、用途や運用体制に応じた複数の実装パターンがあります。実装方法によっては、URL設計やSEO対応、ユーザー体験の設計に細かな工夫が必要になりますが、あらかじめ設計方針を定めておくことで、運用負荷や品質面のリスクも大きく抑えることができます。また、より本格的な多言語対応を行いたい場合は、Weglotのような外部ツールの活用も一つの有力な選択肢です。自社の展開規模や予算、更新体制などを踏まえながら、無理のない構成で段階的に多言語化を進めていくのが現実的なアプローチと言えるでしょう。Studioを活用する場合も、「できる・できない」だけで判断せず、「どのやり方なら自社に合うか」を丁寧に検討することが、多言語サイト成功のカギとなります。